March 25, 2011

■ 大林宣彦さん(映画作家)の

『チャールズ・ブロンソン』の話

 チャールズ・ブロンソンのマネージャーに「男性コスメティックの CMに出演して欲しい」と言ったら、「悪い冗談だろう」と笑われた。「ウチには良い俳優がいっぱいいるから、わざわざブロンソンにしなくても」と言われたけど、「いや、彼が良いんだ」と言って引き受けてもらった。
 そのCMの撮影が、2時間長引いてしまった。あと3カットで終わるんだけど、時間は1時間しか残っていない。1カットにだいたい1時間かかるので、2時間オーバーする見込み。でも相手はハリウッド・スターなので、契約上、時間の延長は不可能だった。
 「時間がないから、あの辺で適当にアップを」ということも考えたけど、実はそのアップは、特殊なことをやろうと楽しみにしていた重要なカット。「それを撮らないのなら、今すぐ日本に帰してくれ」と芸術家肌なカメラマンも主張した。
 そうなると、もう監督がチャールズ・ブロンソンに直接お願いするしかない。「チャーリー、契約時間はあと1時間で終わるけれど、カメラマンがどうしてもあと1時間(さすがに2時間とは言えなかった)欲しいと言っているんだ」とお願いした。すると彼は腕時計を指でいじりながら「うーん、ちょっと待ってくれ」と言った。そして、どうやら夕食の約束をしていたらしい奥さんのジル・アイランドへ電話を掛け「すまん、良い仕事になりそうだから、彼らに1時間をプレゼントしようと思うんだ」と言って電話を切った。
 でもそれで問題が解決したわけじゃない。足りない時間は2時間で、もらった時間は1時間。そこでスタジオへ戻って、スタッフにこう言った。「ブロンソンにお願いしたら、彼は時計の針を1時間巻き戻して“君の時計は何時だい?僕の時計はまだ○時だよ”と言ってくれた」と。
 これはもちろん僕の創作なんだけど、みんな涙を流さんばかりに感動した。なにせ当時、ハリウッドのスターがただで時間をくれるなんて考えられなかったから。それでみんな映画人として意気に感じて、本来なら2時間かかるところをぴったり1時間で撮り上げた。
 後にブロンソンが偉くなって、彼の自伝が出る時に、ライターがホリプロの堀プロデューサーからこの話を聞いたらしい。ところが堀さんは僕の話に騙された人の1人だったので、僕の作り話がそのまま自伝に載ってしまった。まあ、我が師、ジョン・フォードの映画の中の名台詞に「人々が伝説を信じ始めたら、我々は伝説を選ぶべきだ」という言葉もあるので、それはそれで悪くないけど。